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エンタープライズ営業とは?中小企業営業との違いと成果を出すための5つのステップ

「中小企業相手の営業では、そろそろ頭打ちかもしれない──」

そんな危機感から、エンタープライズ企業との取引を模索し始めた方も多いはず。
確かに、1件の受注で売上もLTVも大きく伸びる魅力はありますが、中小企業営業とは全くの別ものでもあります。

本記事では、エンタープライズ営業の特徴や挫折しやすい3つの壁、成功までのステップまでを、実践目線で解説していきます。

エンタープライズ営業とは?

エンタープライズ営業とは、大企業や官公庁など組織規模の大きな顧客を対象にした営業手法です。
1件の契約で見込める金額が大きく、さらに導入後に他部署への横展開や追加契約が期待できるため、SaaS企業をはじめとするBtoB企業の中では「LTV(顧客生涯価値)を最大化できる営業戦略」として注目されています。

特に近年は、SaaSやITサービスの普及により、長期的な関係性構築と大規模契約の獲得を両立する手法として、エンタープライズ営業を導入するスタートアップや成長企業が増えています。

また、一般的な営業モデルである「The Model」や、「ABM(アカウントベースドマーケティング)」とは似て非なるアプローチを取る点も特徴です。

営業モデル概要
The Model広くリードを集め、効率よく案件化・受注を狙う“分業型”モデル
ABM特定企業に対してマーケティングと営業が連携してアプローチする戦略
エンタープライズ営業特定の大企業に対して、営業が主導して信頼関係を築き、社内に深く入り込む“拡大型”の営業モデル

このように、エンタープライズ営業は単なる「売る営業」ではなく、「信頼を育て、長期的にスケールさせる営業」とも言えるでしょう。

エンタープライズ営業で得られる2つのメリット

エンタープライズセールスの実施で得られる主なメリットは、以下の2つです。

エンタープライズ営業は高単価契約につながりやすい

エンタープライズ営業の最大の魅力は、1件あたりの契約金額が非常に高くなる傾向があることです。
大企業では、導入規模が大きく、必要な機能も多岐にわたるため、単価が数百万円〜数千万円規模になることも珍しくありません。

また、導入にあたって複数部署での利用や全社展開が見込まれるケースも多く、初回契約からアップセルやクロスセルにつながる可能性も高まります。

中小企業を数多く獲得していく営業スタイルと比べ、少ない件数でも売上を大きく伸ばせるのが、エンタープライズ営業の大きな強みです。

売上の安定化につながる収益基盤を確保しやすい

エンタープライズ営業では、大企業との契約を通じて継続的かつ安定した売上を確保できる点が大きな強みです。
多くのエンタープライズ企業は、初回契約後も長期的な運用・継続利用を前提とするため、契約更新率が高く、解約リスクも比較的低くなります。

また、SaaSビジネスにおいては、月額・年額の契約による継続課金が積み上がることで、事業のキャッシュフローも安定しやすくなります。

中小企業向けのスポット契約中心の営業と比べ、エンタープライズ営業は“収益の柱”となる顧客基盤を構築しやすく、事業成長の足場を強固にできる営業手法と言えるでしょう。

エンタープライズ営業における3つの試練とは?

エンタープライズ営業には、従来の営業スタイルでは乗り越えられない“3つの壁”が存在します。

アウトバウンドで接点をつくる難しさ

中小企業向け営業では、インバウンドリードや過去の名刺データからアプローチを始めるのが一般的です。
しかし、エンタープライズではそうはいきません。大企業の役職者から「話を聞きたい」と連絡が来ることはほぼなく、自らターゲットを見極め、組織図を読み解き、戦略的にアウトバウンドで仕掛ける必要があります。

つまり、中小企業向けの営業が「公園でポケモンGOをプレイして、近くに出現したポケモンを次々と捕まえるスタイル」だとすれば、エンタープライズ営業は「洞窟の奥に潜む伝説のポケモンを探し、仲間を増やしながら長い旅をするスタイル」に近いと言えます。

前者は“出現してくれる前提”で動けますが、後者は「どこにいるのか」を自分で調べ、必要な道具や準備を整え、時間をかけてようやく出会える相手に挑むプロセスが求められます。

そして、一度出会えても簡単には捕まらず、周囲の環境(社内関係者)や道具(提案資料・実績)を駆使して、じっくりと信頼を積み重ねていく必要があるのです。

エンタープライズ営業は、そんな「出会い」と「攻略」に全力を注ぐ、まさに“別のゲーム”ともいえる世界なのです。

決裁プロセスを動かす「Champion」を見つける難しさ

エンタープライズ営業では、「決裁者(社長など)に直接プレゼンしてクロージング」というシンプルな構図はほとんど通用しません。
大企業の場合、社内の稟議プロセスが複雑で、最終決裁者(Economic Buyer)に営業本人が直接会える機会は限られています。

そのため、営業担当に代わって社内で提案を推進してくれる“Champion(チャンピオン)”の存在が極めて重要になります。

Championとは、単なる応援者ではなく、最終決裁者に対して影響力を持ち、社内で意思決定プロセスを動かせるキーパーソンのこと。かつてのように「Champion=決裁者」だった時代とは異なり、今ではChampion≠決裁者というケースが主流です。

営業が優先すべきは、「誰が社内を動かせるのか?」を見極め、その人物を味方につけること。
一方で、好意的ではあるものの影響力を持たない人物は“Coach(コーチ)”と呼ばれ、Championとの違いをしっかり区別する必要があります。

 Influence有り(決裁者への影響力あり)Influence無し(決裁者への影響力なし)
Authority有り(権限あり)ChampionCoach
Authority無し(権限なし)ChampionCoach

「出世意欲がある」「頭の回転が早い」「社内で一目置かれている」など、Championの特徴には共通点があります。Coachとの違いを見極め、いかに早期にChampionを発見し、関係を構築できるかが営業の成否を分けるカギとなります。

永遠に感じる意思決定プロセスの長さ

大企業では、導入判断に至るまでに複数の部門や関係者を巻き込む必要があり、商談が「合意」で終わっても「受注」にはつながらないというケースが多発します。
しかも、相手企業側も明確に意思決定プロセスを把握していないことすらあります。

このような状況では、営業側が意思決定までのフローを見える化し、顧客と共同で進捗を管理する“Mutual Close Plan”のような思考が不可欠です。
段階的にプロセスを分解し、落とし穴を先回りして潰す“営業設計力”が問われるのです。

エンタープライズ営業を効果的に行うフロー

エンタープライズ営業では、属人的なスキルや根性論では突破が難しく、成果を出すには、再現性のある行動パターンを戦略的に実行することが重要です。

実際、多くの企業で成果が出ている共通の流れとして、次のような5つのステップが挙げられます。

  • ① ターゲティング:優先度の高い企業・組織群を明確にし、狙いを定める
  • ② アカウントプランの設計:組織構造・関係者の把握を含めた戦略設計を行う
  • ③ 丁寧なアプローチ(お手紙送付など):仮説ベースでの接点づくりを仕掛ける
  • ④ Championの発見・関係構築:社内推進力のある人物を見つけ、巻き込む
  • ⑤ 意思決定プロセスの把握と支援:稟議・決裁の流れを読み、先回りで動く

この一連のサイクルは短期間で完結するものではなく、一定の“粘り強さ”と改善を前提に繰り返すプロセスが求められます。

ターゲティング

ターゲティングの基本はシンプルで、「リストアップ × リサーチ」の掛け算です。
まずは、自社の営業活動にとって「やればやるほど成果が返ってくる企業」を洗い出すことから始めましょう。

そのときの判断基準は、以下のような販売ポテンシャルのかけ合わせで考えるのが効果的です。

  • ACV(現時点での契約単価) × LTV(将来的な販売拡張の可能性)

たとえば、ユーザー数課金のSaaSであれば「従業員数」、決済系であれば「売上規模」など、自社のサービスに合った軸で指標化してリスト化することをおすすめします。
「時価総額順」など、わかりやすい指標から始めるのも良いでしょう。

リサーチはGoogleアラートで自動化

次に行うのが情報収集です。
ここでありがちなのが、「日経新聞を毎日目で追う」といった非効率なやり方。抜け漏れも多く、継続もしづらいため、おすすめしません。

代わりに活用したいのがGoogleアラートです。

リストアップした企業名をすべてGoogleアラートに登録しておけば、関連ニュースや動きがメールで自動送信されてきます。
毎日チェックするだけで、最新の企業動向やタイムリーな営業トリガーを把握できる状態が自然と整います。

キーワードは企業名だけでなく、「◯◯業界の動向」「法改正」「新規プロダクト」など、自分にとって価値ある情報に広げてもOKです。

アカウントプラン

企業をリストアップしたら、次に必要なのがアカウントプランの設計です。
これは単に「この会社にアプローチしよう」という話ではなく、その企業内で“誰に何を届けるか”を具体的に描くプロセスです。

特にエンタープライズ企業では、部署も役職も多く、ステークホルダーも複雑です。
そのため、商談を前に進めるには、「誰がカギを握っているのか」「誰が影響力を持っているのか」をあらかじめ把握しておく必要があります。

社内マップを作るイメージで整理する

おすすめなのは、簡単な社内構図(=人物マップ)を紙でもスプレッドシートでもいいので書き出すこと
たとえば以下のような情報を整理しておくと、次の一手が打ちやすくなります。

  • 部署ごとのキーマン(役職・氏名・接点の有無)
  • 最終決裁に影響しそうな人(経営企画、情シス、現場部長など)
  • 過去に会った人、資料を渡した人、社内で味方になりそうな人

いきなりすべてを正確に把握する必要はありませんが、「社内のどこに話が通る可能性があるか」を仮説ベースで整理することが大切です。

目的は“Championを発見する準備”を整えること

このアカウントプランは、次のステップである「Championの発見と育成」にもつながる重要な土台です。
誰を起点にすれば話が進みそうか?
どの順番で関係性を築くべきか?
こういった戦略的な営業設計は、行き当たりばったりでは絶対に成果が出ません。

だからこそ、“攻める相手の社内構造を知る”という視点で、アカウントプランを設計する習慣を持つことが、エンタープライズ営業の成否を分ける第一歩です。

お手紙送付(アプローチ)

ターゲット企業と人物が定まったら、次はいよいよアプローチ。
とはいえ、いきなり「サービス紹介させてください!」と営業色全開で連絡しても、エンタープライズでは基本的にスルーされます

だからこそ重要なのが、相手の状況や関心をふまえた“お手紙”のようなアプローチです。
メールでもDMでも構いませんが、伝えるべきなのは「こちらの商品」ではなく、「あなたの会社の今、この動きに対して、こんな支援ができるかもしれません」という仮説ベースの共感と示唆です。

“手紙を書くように”企業と人を尊重する

例えば、以下のような切り口が有効です:

  • 「貴社の●●というプレスリリースを拝見し…」
  • 「昨今の△△業界の動きにおいて、御社のような企業ではこういった課題があるのではと感じ…」
  • 「同業他社では、XXという背景から、XXのようなアプローチを進めており…」

このように、相手の文脈から入るアプローチは、“あなたのことを理解しようとしています”というメッセージになり、受け取られる可能性が格段に上がります。

テンプレに頼らず、自分の言葉で伝える

Googleアラートなどで収集した情報をもとに、「この人に向けて書く一通の手紙」を意識して文面を組み立てるのがポイントです。
テンプレ感のあるメールはすぐに見抜かれますし、大企業の決裁者や部課長クラスは”雑にに扱われたかどうか”に非常に敏感です。

逆に、自分の言葉で丁寧に書かれた内容であれば、たとえサービスを知らなくても「一度話を聞いてみよう」と感じてもらえる可能性があります。

Championの発見と関係構築

Championは“ただ見つければOK”という存在ではありません。
むしろ重要なのは、「この人だ」と見極めたあとに、どう信頼関係を築き、どう社内での動きを後押ししてもらうかという関係構築フェーズです。

そのためには以下のようなポイントを意識しておくと効果的です。

  • “この商談がChampion本人の評価につながる”ように提案を設計すること
     → Championが「社内で推進したくなる理由」を提供する
  • 社内プレゼンで使える資料を一緒に作る、ストーリー設計を一緒に考える
     → 提案の「共犯者」になることで、責任感と一体感を共有できる
  • 短期成果と中長期の可能性、両方を提示する
     → 「今この部署で成果が出る」だけでなく、「この人が昇進後にどこまで展開できるか」も想起させる

意思決定プロセスの把握と支援

Championとの信頼関係が築けたからといって、すぐに契約に至るとは限りません。
エンタープライズ営業では、「そのあと社内でどのように稟議が通り、誰がどのタイミングで承認するのか」という意思決定プロセスの把握と設計が極めて重要になります。

中小企業では、社長に直接提案すれば話が決まるケースも多いですが、エンタープライズ企業ではそうはいきません。
複数の部門や責任者が関与し、場合によっては数ヶ月かかる長期戦になることもあります。

顧客と一緒に“受注までの地図”を描く

このフェーズで営業がやるべきことは、Mutual Close Plan(共同クロージング計画)の発想を持つことです。
つまり、「誰が、いつ、どのような書類や承認を経て、契約に至るのか」を営業とChampion、または関係者で共有し、進行を伴走する
というスタンスです。

  • 稟議書や提案書のフォーマットはどうなっているか?
  • 契約書レビューに法務はどれくらい時間をかけるか?
  • セキュリティチェック・IT部門のレビューは必要か?

こういった情報をあらかじめ把握・確認し、必要な資料や情報を先回りで準備しておくことが、受注までのスムーズな進行に直結します。

「知らなかった」では済まされない営業フェーズ

このプロセスを甘く見てしまうと、
「いいところまで話が進んでいたのに、社内で止まってしまった」
「最後に出てきた法務の反対で白紙になった」
といった“最後の落とし穴”にはまってしまいます。

だからこそ、営業は提案の熱意だけでなく、クロージングまでの“段取り力”も問われるのです。

AI活用でエンタープライズ営業を効率化する方法

エンタープライズ営業では、顧客の絞り込みや情報収集、アカウントプランの設計などに多くの時間とリソースが必要です。
こうした負担の大きいプロセスも、AIを活用することで大幅に効率化することが可能です。

たとえば、Salesforceの「Sales Cloud」では、顧客名をクリックするだけで取引履歴やコミュニケーション内容などの関連情報をすばやく確認できます


さらにAI「Einstein(アインシュタイン)」を活用すれば、顧客データの自動更新や、外部・内部のCRM情報の要約表示も可能になります。Einsteinが提供するインサイトをもとに、顧客ごとに最適なメッセージやアプローチ内容を提案する機能もあり、提案の質も同時に高めることができます。

また、エンタープライズ営業に欠かせない「アカウントプラン」も、蓄積された顧客データを活用してAIが自動で下地を設計することができるため、営業担当者は戦略の検討や関係構築に集中することができます

これまで手作業に時間を割いていた情報収集や分析をAIに任せることで、人間だからこそできる“本質的な営業活動”に注力できる環境が整ってきています

▼Sales Cloudに関する情報はこちら▼
https://www.salesforce.com/jp/sales/

さいごに

エンタープライズ営業は、単に「売る」だけの営業ではありません。
顧客企業の内部構造を理解し、関係性を築きながら、組織全体を動かす戦略と粘り強さが求められる“総合格闘技”のような営業スタイルです。

本記事で紹介したように、成功するためには、ターゲティング、アカウントプランの設計、丁寧なアプローチ、Championの発見、意思決定プロセスの設計といった一連のステップを、確実に積み上げていくことが欠かせません。またこのステップを泥臭く継続していく忍耐力も求められます。

そして今では、AIやCRMツールの活用によって、情報収集や分析の時間を削減し、営業が“人にしかできないこと”に集中できる環境も整いつつあります。

まずは、「本当に攻めるべき顧客はどこか?」を見つめ直し、ひとつずつステップを進めていくところから始めてみてください!

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