目次
- 1 アカウント営業とは|顧客と深く向き合う営業
- 2 アカウント営業のメリット・デメリット
- 2.1 メリット
- 2.2 デメリット
- 3 アカウント営業でよくある失敗と対策
- 3.1 顧客との関係が“なれ合い”になり、提案が甘くなる
- 3.2 情報共有が不十分で、担当者が変わると関係がリセットされる
- 3.3 顧客に依存しすぎて、他のアカウントへの営業活動が疎かになる
- 4 アカウント営業の進め方と設計フロー
- 4.1 STEP1. ターゲットの選定
- 4.2 STEP2. 顧客課題の仮説立て
- 4.3 STEP3. キーパーソンとの関係構築
- 4.4 STEP4. アカウント戦略の立案
- 4.5 STEP5. 課題の共有と提案の実行
- 4.6 STEP6. 関係性の拡大と次のアプローチ
- 5 アカウント営業にはSFA/CRMを活用しよう
- 5.1 営業活動を「見える化」できる
- 5.2 顧客ごとの最適なアプローチができる
- 5.3 チームで戦略を共有しやすくなる
- 6 SFA/CRM活用によるアカウント営業成功事例
- 6.1 属人化からの脱却。アプローチ履歴を見える化し、失注率30%改善
- 6.2 情報の一元管理で“引き継ぎショック”をゼロに。顧客の信頼を維持
- 7 さいごに
「アカウント営業」という言葉を聞いたことはあっても、具体的にどのような営業手法なのか、他の営業スタイルとどう違うのか、ピンと来ない方も多いのではないでしょうか。
アカウント営業は、単発的な受注ではなく、特定の企業(アカウント)に対して長期的な関係性を築きながら深く向き合う営業手法です。BtoBビジネスの複雑化や顧客の購買プロセスの多様化が進む中で、今あらためて注目を集めています。
この記事では、アカウント営業の基本的な考え方からメリット・デメリット、必要なスキル、戦略の立て方、そしてSFAやCRMツールを活用した実践方法や成功事例までをわかりやすく解説します。
「成果を出せる営業にステップアップしたい」「既存顧客との関係性を強化したい」と考えている方は、ぜひ参考にしてみてください
アカウント営業とは|顧客と深く向き合う営業

アカウント営業とは、特定の企業(アカウント)に対して長期的・戦略的に関係を築いていく営業手法です。新規顧客を次々と開拓していくスタイルとは異なり、既存または特定の有望顧客に対して継続的に価値を提供しながら、売上や取引の拡大を目指します。
特にBtoB領域では、意思決定プロセスが複雑で関係者も多いため、顧客ごとに課題やニーズを丁寧に把握し、カスタマイズされた提案や継続的なフォローが欠かせません。営業担当者は単なる“売り手”ではなく、パートナーとして信頼関係を構築し、顧客の成長を支援する存在として行動します。
このように、アカウント営業は「量」ではなく「質」を重視する営業スタイルであり、売上の安定化やLTV(顧客生涯価値)の向上にもつながる重要な戦略のひとつです。
アカウント営業のメリット・デメリット

アカウント営業は、顧客との関係を深めながら長期的な取引を目指す営業スタイルですが、その特性ゆえにメリットもあれば注意すべきデメリットもあります。ここでは、アカウント営業の代表的な利点と課題を整理してご紹介します。
メリット
- 取引の安定化・売上の継続性が見込める
一度信頼関係を構築できれば、継続的な受注や追加提案のチャンスが生まれ、売上の安定につながります。 - 顧客理解が深まり、的確な提案ができる
顧客の事業内容や課題を深く把握することで、画一的な商品提案ではなく、より適切で刺さる提案が可能になります。 - 競合との差別化が図りやすい
関係性を武器に他社では真似できない提案やサポートができるため、価格競争に巻き込まれにくくなります。 - LTV(顧客生涯価値)の最大化が期待できる
単発的な売上ではなく、アップセル・クロスセルによって取引額が伸びやすいのも特徴です。
デメリット
- 成果が出るまでに時間がかかる
関係構築に時間を要するため、短期的な売上を求められる営業体制ではミスマッチになることもあります。 - リソース配分の難しさ
1社あたりにかける時間や工数が多くなりがちなため、担当できるアカウント数に限りがあり、組織としての生産性設計が重要になります。 - 属人化のリスク
担当者と顧客との関係が密になることで、担当者の異動・退職が関係解消や売上減につながるケースもあります。
アカウント営業は、うまく運用すれば大きな成果を生みますが、導入や運用には戦略的な体制づくりが不可欠です。次章では、その成功の鍵となる注意点や必要なスキルについて解説します。
アカウント営業でよくある失敗と対策

アカウント営業は関係構築型の営業手法として効果的ですが、進め方を誤ると「手間がかかるだけで成果が出ない」といった事態にもつながりかねません。ここでは、アカウント営業でありがちな失敗と、その対策方法を紹介します。
顧客との関係が“なれ合い”になり、提案が甘くなる
失敗例:
長期的な取引を意識するあまり、顧客に遠慮してしまい、踏み込んだ提案や価格交渉ができなくなる。結果として、提案の質が下がり、関係もマンネリ化してしまう。
対策:
「信頼関係=イエスマンになること」ではありません。顧客にとって耳の痛いことでも、課題解決につながることであれば明確に提案する姿勢が重要です。定期的にKPI(成果指標)を設け、提案の質を客観的に評価することも効果的です。
情報共有が不十分で、担当者が変わると関係がリセットされる
失敗例:
担当者個人に情報や関係構築が依存していて、異動や退職で一気に関係性が崩れてしまう。引き継ぎも曖昧で、顧客からの信頼を失ってしまう。
対策:
属人化を防ぐために、CRMやSFAを活用して顧客情報・提案履歴・会話のニュアンスまで一元管理することが大切です。社内で「この顧客は誰が見ても状況がわかる」状態をつくりましょう。
顧客に依存しすぎて、他のアカウントへの営業活動が疎かになる
失敗例:
大手顧客との関係構築に時間をかけすぎ、他の見込み顧客やクロスセルの機会を逃してしまう。結果的に営業全体の成果が偏ってしまう。
対策:
アカウントごとに対応工数の上限や注力度を決めるなど、“営業リソースの配分ルール”を事前に設計することが必要です。顧客をABCランクなどで評価し、重点対応先とそうでない顧客を明確に分けましょう。
これらの失敗を避けるためには、「関係構築=目的ではなく手段」と捉え、継続的に成果につながる設計と運用体制を整えることが求められます。
アカウント営業の進め方と設計フロー

アカウント営業を成功させるには、「感覚」に頼るのではなく、戦略的に設計されたプロセスに基づいて顧客と向き合うことが重要です。
ここでは、実践的かつ再現性の高い「戦略的アカウント営業」の進め方を、6つのステップに分けて解説します。
STEP1. ターゲットの選定
まずは、注力すべきアカウント(企業)を見極めるところから始めます。
- 自社サービスとの親和性
- 将来的な利益性や取引拡大の可能性
- 関係性構築にかかる時間やコスト感
といった観点をもとに、どの顧客と・どのくらいの期間をかけて関係を築くかをあらかじめ想定しておくことが、無駄のない営業活動につながります。
STEP2. 顧客課題の仮説立て
ターゲットが決まったら、次は顧客が抱えるであろう課題を“仮説”として立案します。
この段階では完璧な答えよりも、質の高い仮説を持って対話に臨む姿勢が重要です。
- IR情報や経営計画
- 業界ニュース・市場動向
- プレスリリースやSNS情報
などをもとに背景理解を深め、本質的なヒアリングにつながる切り口を準備しておきましょう。
STEP3. キーパーソンとの関係構築
次に必要なのは、顧客企業内で意思決定に関与する「キーパーソン」との信頼関係構築です。
キーパーソンには以下のような人物が該当します。
- 経営層や部門責任者
- 課題への当事者意識が強い人物
- 社内に影響力を持つ中核人材
顧客にとって「この人は本気でうちのことを考えている」と思ってもらえるよう、誠実な姿勢と傾聴力をもって接しましょう。
STEP4. アカウント戦略の立案
ヒアリングを通して得られた情報をもとに、自社がどう顧客の課題に貢献できるかを設計します。
- どのような価値を、誰に、いつ届けるか
- 導入ハードルや社内フローの把握
- 提案パターンを複数用意する柔軟性
ポイントは、“売りたい”ではなく“顧客にとって価値があるか”を軸に考えることです。
STEP5. 課題の共有と提案の実行
提案の前に重要なのは、顧客と課題認識をすり合わせる=共通言語を持つことです。
その上で、
- なぜこの提案が課題解決になるのか
- 導入後にどんな成果が期待できるのか
を、シンプルかつ具体的に説明しましょう。
「顧客が得られる成果」を優先的に伝える姿勢が、信頼獲得につながります。
STEP6. 関係性の拡大と次のアプローチ
提案によって成果が出たあとは、次の課題の発掘や横展開のフェーズに入ります。
- 他部門への展開(クロスセル)
- 紹介・リファラルの獲得
- 継続的なアップセルの提案
こうしたアクションを積み重ねることで、1社のアカウントから複数の成果を生み出す“関係資産”へとつながっていきます。
アカウント営業は、単なる“受注”ではなく、顧客と共に成果を出し続ける関係性のビジネスです。
この6ステップを指針に、自社に合った戦略を構築し、確実な実行につなげましょう。
アカウント営業にはSFA/CRMを活用しよう

アカウント営業は、顧客1社ごとに深く入り込み、関係構築・課題把握・提案・継続支援までを一貫して行う営業スタイルです。しかしその分、情報量が多くなりやすく、管理の煩雑さや属人化のリスクがつきものです。
そこで活用すべきなのが、SFA(営業支援システム)やCRM(顧客管理システム)です。これらのツールをうまく使うことで、アカウント営業を“仕組み化”し、再現性のある営業体制を構築できます。
営業活動を「見える化」できる
アカウント営業では、個々の商談の経緯や顧客とのやり取り、関係構築のステータスをチーム全体で把握する必要があります。
SFA/CRMを活用すれば、以下の情報を一元管理できます:
- 顧客との接点履歴(訪問・メール・電話など)
- 商談の進捗状況とアプローチ内容
- 過去の提案資料や見積書
- 関係者の役職や影響度 など
誰が見てもすぐに状況が把握できる状態をつくることで、引き継ぎやチーム連携がスムーズになり、属人化も防止できます。
顧客ごとの最適なアプローチができる
SFA/CRMは、アカウントごとの課題や反応を記録・分析するのにも有効です。たとえば、
- どのタイミングで提案したか
- どのような資料が刺さったか
- 過去に断られた理由は何か
などを蓄積・整理していくことで、次のアクションの精度が高まり、提案の質が格段に上がります。
チームで戦略を共有しやすくなる
アカウント営業は、担当者個人の頑張りだけでなく、マーケティング部門やサポートチームとの連携が重要になる場面も多くあります。
SFAやCRMを通じて情報を共有することで、
- 戦略の方向性をチームで統一できる
- 営業以外の部門と連携しやすくなる
- データに基づいた判断ができるようになる
といった“チームで勝つ営業体制”を実現しやすくなります。
アカウント営業は「人」が動かすからこそ、情報とプロセスをツールで整理・補完することが不可欠です。属人化を防ぎ、効率よく成果につなげるためにも、SFA/CRMの活用は早い段階で組み込んでおきましょう。
SFA/CRM活用によるアカウント営業成功事例

属人化からの脱却。アプローチ履歴を見える化し、失注率30%改善
業種:ITソリューション企業/従業員数:50名/営業対象:中堅〜大手企業の情シス部門
◆ 背景・課題
当時、営業は3名体制で、1人が20社ほどを担当。アカウントごとの対応内容は、各営業の頭の中かExcelに散在しており、
- 同じ企業に何度も似た提案を繰り返す
- 過去に断られた理由がわからず、無駄な提案を再送
- 他部署展開のチャンスがあっても情報が共有されず機会損失
などが常態化していました。営業マネージャーも「誰が何をしているか全く把握できない」と危機感を持っていた状況です。
◆ 施策内容
- SFAツールを導入し、アカウント単位でのアクション履歴を全社共有化
- 営業ごとのExcel資料や属人的なメモをすべてSFAに集約
- 週1回の営業ミーティングでは、「前回の接点内容」と「次の一手」をSFA画面を使ってレビュー
- 過去に断られた内容や、反応が良かったアプローチをログで確認し、“次の商談”の精度を高める習慣を浸透
◆ 結果
- 明らかな重複提案・タイミングミスが減少し、失注率は30%改善
- 一部アカウントでは、情報をもとに他部署への横展開に成功し、受注額が1.5倍に
- 営業メンバーの引き継ぎもスムーズになり、未経験の若手でも成果を出せる体制に
情報の一元管理で“引き継ぎショック”をゼロに。顧客の信頼を維持
業種:人材紹介/従業員数:80名/営業対象:地方中小企業の経営者・人事責任者
◆ 背景・課題
10年来の既存顧客アカウントを、営業リーダーの異動により若手に引き継ぐことに。ところが、
- 顧客との関係性の深さが営業担当者の個人的なノウハウに依存
- 「あの時、社長にこう言った」「この表現はNG」などが共有されていなかった
- 引き継ぎ直後に商談の空白期間ができ、顧客から「誰に相談すればいいの?」と不安の声
といった典型的な属人化トラブルが表面化しました。
◆ 施策内容
- CRMを導入し、顧客ごとの関係性情報・商談履歴・提案履歴を一元管理
- 過去の失注理由、好まれる言い回し、意思決定フローなども細かくメモ化
- 引き継ぎ前の営業担当が「引き継ぎ用チェックリスト」と「過去5年分の活動ログ」をCRMに残す文化を作成
- 引き継ぎ後も、前任者がレビューしやすい体制を一時的に構築し、新担当者が顧客に違和感を与えない運用を設計
◆ 結果
- 引き継ぎ後も顧客からの問い合わせ・依頼件数は変わらず、商談継続率は95%以上を維持
- 顧客から「誰が担当でもちゃんと把握されていて安心」と評価される
- 営業マネージャーが「属人化せずアカウントを再配置できる」状態を実現し、チーム全体の対応力が向上
さいごに
アカウント営業は、顧客と長期的な信頼関係を築きながら、継続的な成果を生み出していく営業スタイルです。
その分、属人化や情報の分断といったリスクも抱えやすく、感覚や経験だけに頼った営業では限界があるのも事実です。
だからこそ、SFAやCRMといったツールを活用し、情報やプロセスを“仕組み化”することが成功への近道です。
「誰が担当しても同じレベルの対応ができる」「チームで戦略を共有できる」状態を作ることで、アカウント営業はより再現性のある武器になります。
本記事で紹介した戦略ステップや事例を参考に、自社の営業活動を見直し、一歩先のアカウント営業の実践にぜひ役立ててみてください。